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演劇におけるサスライトとは?

舞台・演劇の分野におけるサスライト(さすらいと、Sas Light、Projecteur sur pied)とは、舞台・演劇において特定の位置から人物や物体に向けて集中的に照明を当てるために用いられる照明機器、またはその照明手法を指します。正式名称は「スポットライト(spotlight)」ですが、日本の舞台業界では特に「上から俳優を垂直または斜めに狙う光」をこのように俗称することが多く、現場用語として定着しています。

サスライトは、演者の表情や動き、感情の変化を明確に観客に伝えるために使用され、特定の人物や場所を強調したい場面で多用されます。たとえば、モノローグの場面や重要な転換点、心理的な緊張が高まるシーンなどにおいて、空間の中から一人の登場人物を抜き出して際立たせる効果があります。

英語で言う「Sas Light」という語自体は日本独自の和製英語であり、正式な照明用語では「フロントスポット」や「トップライト(Top Light)」などがより近い表現です。しかし、日本の舞台照明の現場ではこの呼称が日常的に使われており、照明プランやキューシートにも記載されることが一般的です。

また、舞台演出においてはこの光の存在が「神の視線」「社会からの視線」「記憶のフラッシュバック」など、象徴的・心理的な意味合いを持って設計されることもあり、単なる照明効果にとどまらない舞台美術の重要な構成要素のひとつとなっています。



サスライトの歴史と語源的背景

サスライトという言葉は、日本の劇場技術において通称的に使用されている用語であり、「サスペンション(吊り下げ)式ライト」から転じたとの説もありますが、実際にはその語源は明確ではありません。ただし、照明を上方から吊り下げて照射する手法であることから「Sas(吊るす)」=「サス」と音的に転訛した可能性が高いと考えられています。

舞台照明の技術が体系的に整備されるようになったのは20世紀初頭、特に電気照明の発展と共に、天井からの照射による効果的なライティングが試みられるようになりました。演劇において演者の顔を照らすという目的は、それ以前のろうそくやガス灯の時代には難しいものでしたが、照明器具の進化と共に光を「意図して操る」ことが可能になり、演出の幅が格段に広がったのです。

特に日本では、戦後の新劇運動や商業演劇の興隆に伴い、西洋式の照明技術が導入される中で、現場での通称として「サスライト」という語が用いられるようになりました。この語は舞台照明技術者の間で広く使用されており、観客には聞き馴染みがなくとも、裏方における重要なキーワードとなっています。

今日では、演出家や照明家が「サスで当ててください」と指示することで、舞台上の特定のエリアに上方からの集中光を設定することが一般化しています。



サスライトの用途と演出効果

サスライトは、舞台上において「何を目立たせるか」を明確にするための重要な照明技術であり、以下のような場面で多く使用されます:

  • モノローグや独白の強調:他の演者や背景を暗くした上で、一人の人物のみにサスライトを当てることで、内面世界を強調する。
  • 場面転換時の導入:暗転後、サスライトで浮かび上がる人物を提示することで、次のシーンの導入として効果的。
  • 象徴的効果の創出:「天からの光」や「記憶の中の人物」といった抽象的演出の具現化。
  • 照明による視線誘導:舞台上で複数のアクションが同時に行われている場合に、観客の注視点を調整するために使用。

また、照明機材としては、フレネルレンズタイプやエリプソイダルリフレクター・スポット(ERS)などが使われ、吊りバトンから吊るされた位置に設置されます。光の角度・距離・色温度を微調整することで、視覚的な印象は大きく変化します。

なお、現代演劇においては、サスライトに色フィルター(カラーメディア)を組み合わせることで、場面の感情や時代設定、登場人物の内面などを視覚的に表現する手法も多く見られます。



サスライトの現在と今後の展望

現在、サスライトは、従来の白熱灯やハロゲンランプから、LED化が進んだ機材へと置き換わりつつあり、調光・調色・演出の自由度が格段に向上しています。

これにより、以下のような新たな展開が可能になっています:

  • 動的サスライト:DMX制御によるプログラムにより、サスライト自体を移動させたり、フェードや点滅を演出に取り入れることが可能に。
  • 360度舞台におけるサスの再定義:プロセニアム形式に限らず、アリーナ型やフラット舞台においても、上からの「選択的照明」としてのサスライトが応用されています。
  • 演出家と照明家の共同設計:近年では舞台設計の初期段階からサスの位置や意味が共有され、空間デザインの一部として扱われています。

また、テクノロジーの進化に伴い、AIによる自動追尾サスライトや、音声反応による即時反応型照明の実用化も進められており、照明演出が演技と同様に舞台の表現主体となる時代が到来しつつあります。

このように、サスライトは単なる「光を当てる装置」ではなく、舞台における意味構築と感情表現を担う極めて繊細なメディアとして、今後も演劇制作に不可欠な役割を果たしていくことでしょう。



まとめ

サスライトは、舞台芸術において特定の対象を際立たせるために使用される上方照明の通称であり、演出上の焦点を絞り込むための不可欠な手段です。

その役割は視覚的な強調だけにとどまらず、演出意図や舞台構成、観客の視線や感情の誘導までをも包含する照明芸術の核心的技法といえるでしょう。

今後、テクノロジーの進化と共にその可能性はさらに広がり、光による演出の未来を切り拓く鍵となっていくと考えられます。

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